April fool〜桜誕生日祝い〜
 
 
  月1日。木之本 桜はリビングでテレビを見ていた。
「つまんないよーう」
 父親の藤隆は仕事だし、兄の桃矢は大学に行っている。だから家には桜しか居ない。
桜は友枝中学校に通っていて、今は春休だ。休みと言っても、桜にとっては退屈な2週間となっている。
クラスのみんなとも会えないし、何といっても恋人である小狼に会えないのだ。
「そいえば今日は・・・」
 ふとカレンダーを見ると、今日の日付のところに『桜さん誕生日』と書かれており、
横にあるホワイトボードには、父も兄も早帰りと走り書きしてある。きっと家でパーティーをするのだろう。
年恒例で二人が豪華な食事を作ってくれる。もちろん二人の誕生には、桜がケーキを焼いてあげているのだ。
「小狼君に会いたいよー・・・」
 春休みになってから会っていない。先週から小狼は母国である香港へ帰っていて、電話でしか連絡を取り合っていなかった。
確か昨日あたりにはこちらに戻っているはずなのだが。
「お家に行ってみようかな・・・」
 考えるより行動に移す桜は、すでに玄関のドアを開けていた。
 
 
ピンポーン
 返事がない。何回か押してみたが、結果は同じだった。
「お出かけしてるのかな?それともまだ帰ってきてない?」
 几帳面な小狼のことだから、きっと日本へ着いたら連絡してくるだろう。
未だに連絡がないということは、まだ戻って来ていないということなのだろうか。
 その場に居ても仕方ないので、桜は自分の家へ帰ることにした。
「会いたかったなぁ」
 しばらく歩いていると、反対側の歩道に見覚えのある姿が見えた。
「知世ちゃん!」
 しかし相手に桜の声は届かなかったようだ。それに、知世の隣には誰かが居た。
よく見えなかったが、桜にはそれが誰か分かってしまった。
「・・・・・・小狼君・・・?」
 間違いない。桜の大好きな小狼だ。でも、どうして小狼の隣に居るのが自分ではないのだろう。
桜は心が痛むのを感じた。もちろんそのことも気掛かりだが、もっと気になるのは小狼から何の連絡もなかったということ。
桜ではなく他の誰かと会っているということ。
 
今日が、とても大切な日だということ。
 
──何で・・・・・・?
 桜には何がなんだか分からなくなっていた。 
 喜びや怒り、色んな感情が桜の心の中に渦巻いていた。桜はどうにも出来ず、そのまま猛ダッシュで家に帰った。
家に着くと、すでに桃矢が帰宅していた。キッチンに立って準備を始めている。
「さくら、何処行ってたんだ?」
「・・・お散歩」
「父さんもうすぐ帰ってくると思うから」
「・・・うん」
 もう今の桜に他の事を考える余裕はなかった。
桃矢はそんな桜を見て心配そうにしていたが、特に何も聞いてはこなかった。桜に気を遣ったのだろう。
 そこで電話が鳴った。
「俺が出る」
 電話に出ると、桃矢の顔が少し曇った。そして桜に受話器を差し出す。
「・・・・・・小僧からだ」
 
そろそろ電話が来るんじゃないかと予想はしていた。桜はゆっくりと手を伸ばし、桃矢から受話器を受け取った。
「もしもし・・・さくらです・・・」
『小狼だ。すまない、連絡が遅くなって』
「今日小狼君のお家に行ったんだよ?出かけてたの?」
 そこでほんの少しだが、小狼が息を呑んだ気配がした。
『実は、急に予定が変更になって、さっき帰って来たところなんだ』
──うそつき。
   さっきまで知世ちゃんと居たじゃない。
   わたし、見たんだよ?
「・・・そっか」
『今から会わないか?』
「え、今から?」
『ああ』
──本当はすごくすごく会いたい。
あんなの見なきゃすぐに会いたいって言えるのに。
 桜の頭は混乱していた。会いたいのに会えない。複雑な気持ちが桜を不安にさせる。
『さくら、何か元気ないな』
 小狼は桜の表情や気持ちを敏感に読み取る。桜の顔色が悪かったりすると必ず心配してくれる。
今だって、桜の声色だけで桜に元気がないと心配している。
──原因は小狼君だよ
『ごめん、遅くなるって連絡しとけばよかったな』
──そんなことじゃない。
   もっと他に、言うことがあるでしょう?
「ううん、わたしは大丈夫だよ」
『さくら・・・・・・』
 桜が無理して笑ってるということを、小狼は気付いている。
 
『会いたい』
 
その一言で、さっきまでモヤモヤしていた気持ちが一瞬に吹き飛んだ気がした。
──そんなこと言われたら、
あんなのどうでもよくなっちゃうよ・・・
「わたしも・・・会いたい・・・会いたいよ、小狼君」
 
 
 
 
next...

 

 
 
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